「Life is random.」考 ~ コンピュータと人の革新について
Appleって会社はつくづく不思議な会社だと思う。
「すべて、偶然に任せよう。」
「冒険がある人生を。」
「予想外が楽しい。」
これらはみんなご存知 iPod shuffleのコピーなんだけど、どれを見ても携帯音楽プレイヤーのコピーとしては妙な文言ばかりだと思えないだろうか?なぜかっていうと、まず「音楽」っていう言葉が一言もないし、それにiPod shuffleのウリは要するに「シャッフル」っていう名前に置き換えられている「ランダム再生機能」だけど、それをアピールするのにわざわざ「人生」を語ってたりする。そもそもランダム再生って機能は別に目新しくもなんともない機能だと思うんだけど、それを「Random play」って言わずに、あえて丸ごと「Life is random.」って言うのである。
ちなみに、同様の製品で東芝の「gigabeat」っていう製品があるんだけど、そのコピーは「I love beat. I love music.」っていう言葉で、実に単刀直入。ぱっと見た感じで、音楽を愛する人にはgigabeatを・・・みたいな雰囲気がそのまま汲み取れる。でもAppleはそうはならずに「偶然」「冒険」「予想外」「人生」で自らを語ろうとする。とっても不思議な表現をとりたがる会社だと思う。
ランダム再生機能を「シャッフル」って言葉で再定義してること自体は、とっても重要だって言うことはよく分かる。
なぜかっていうと、トランプっていうのはシャッフルされることで初めてトランプとしての楽しみを得ることができるわけで、つまりは音楽をトランプのようにシャッフルすることで音楽の新しい楽しみ方を得られますよ、っていうことをそこで示しているからだ。要するに、単に機能そのものをそのまんま表現するんではなくて、シャッフルっていう名前によって「楽しみ方」を表現しているのである。
で、実際にiPodとかiTunesとかで曲をシャッフルしてみると、それがホントに楽しいってことがよく理解できる。アルバム通りの決まりきった曲順ではなくって、アーティストとかジャンルとかの枠を越えて大量の曲をシャッフルに任せっぱなしにすると、その場がちょっとした自分専用のDJとかラジオ局みたいな感じになって、不思議な楽しさが沸いてくるのだ。「予想外が楽しい」っていうのは、ホントにその言葉どおりで、次に何の曲が来るのか分からないっていう単純なことが、これまで経験したことのない奇妙な楽しさを感じさせてくれるのである。
で、「シャッフル」をそういう「楽しみ方」って風に捉えてみると、なんで「Life is random.」っていう言葉を使いたがるのかが何となく見えてくるような気がする。どういうことかって言うと、これら一連のコピーで、単に「こういう便利機能があるよ」ってことを言うんじゃなくって、一切を偶然に任せてみるっていう選択と、それを楽しんでみようよっていう考え方の提案をしたいんじゃないかってことだ。つまり、「シャッフル」っていう「新しい音楽の楽しみ方」を最もアピールしたいがために、その楽しみ方を通じた「新しい音楽ライフスタイル」を提案しようとして、そのために「人生」を語っているんじゃないか、というわけである。
さっき書いた「I love beat. I love music.」っていうのは、冷静に見れば、実はそんなことは言われなくても分かっていることで、「Life is random.」は、そういうことの先にある音楽生活を指し示そうとしているのである。
そこまで考えてみると、Appleって会社は、本当に凄い面白い会社だとつくづく思えてならない。
なぜって、単なる音楽再生プレイヤーを開発するのに、はなっからその「新しい音楽ライフスタイル」を提案するつもりで作っているからである。もしも、この「Life is random.」が単に広告上のテクニックで、もともとはよくあるような便利機能をそのまんまウリにするようなつもりで作っているんだったら、ゼッタイにiPod shuffleには液晶画面がついているはずだと思う。それが、最大で1ギガっていう容量がありながらiTunesも含めてシャッフルに特化して設計したってコトは、「こういう新しい毎日が待ってるよ」とか「新しい音楽の楽しみ方があるよ」ってことを製品そのものの主体性として織り込もうって意志が、まちがいなくそこに働いているはずである。
そういうところから、Appleという会社は、「こういう機能があるからより便利になりますよ」っていう、「IT」って言葉が本質的に指し示している方向ではなくって、リリースする製品によって「より楽しい毎日が待っている」とか「よりよく生活を彩ってくれる」とか「より新しい文化が生まれる」ってことをユーザーに提供したいって、根本的に思っている会社なんではないかって思えてならないのだ。
1997年の鮮烈なコマーシャル「Think different.」からもそういうことをビシビシ感じるんだけど、そういう、断じて機能自体を強調せずに、それによってどのように生活が彩られるかってことを提案したがるっていうのは、もしかしたらAppleの人たちは、「コンピュータは人の革新を生み出す存在」だってことを本気で信じて疑わない人たちなんではないかって思う。
実はスナドリ自身、根本的にそういう人間なんだけど、例えば「Think different.」は、性別、人種、年齢、分野などを問わず、この世に「新しき何か」を生み出した偉大な人物を並べて、Apple Computerはその新しき何かを生み出すことに常に挑戦し続ける会社ですよってことを言ってて、そして同時に、「Think different.」っていうように命令形で語りかけることから、コンピュータパワーを使ってその新しき何かをみんなで生み出そうよってことも訴えている。それは単に「ITで世の中便利になっていく」ってことでは断じてなく、「コンピュータパワーは、人間の新しき何かへの挑戦のために存在する」ってことを言いたいのである。
ちょっと飛躍しすぎかもしれないけど、やっぱりそこには「コンピュータは人の革新を生み出す」っていう基本的な思想があるから、全社的にそういうことを言ったり、全社的にそういう製品を作ったりすることができるんだと思う。
こっから先は、スナドリの妄想にすぎないことだけど、そもそもの会社名が、「なんちゃらソフト」みたいな企業名ではなく「Apple」っていう不思議な名前であることも、たぶんきっと、ニュートンの林檎から来ているんだと思う。なぜかっていうと、林檎はニュートンが万有引力の法則を発見するきっかけになったわけで、つまりはそういう発明/発見のきっかけを作ることができる存在でありたい、ってことから「Apple」になったんではないかと思うのだ。まあ、実際のところは諸説あるようだけど、以前にはホントに「Newton」っていうPDAがAppleから発売されていたわけだし、あながち全然はずしているわけではないかもしれない。(でももし全然はずしてたらゴメンなさい)
それらの証拠っていうわけではないけど、1983年にスティーブ・ジョブス氏がジョン・スカリー氏を当時のペプシ社から引き抜くときに放った有名な殺し文句に、その「革新」の思想の一部が垣間見えるので、最後に引用してみよう。
「残りの人生を砂糖水を売って暮らすのか?それとも世界を変革するのか?」
いやはや、Appleって会社は、本当に不思議で、魅力に満ちあふれた会社である。
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コメント
こんにちは、初めまして。トラックバックありがとうございました。
私の下らないお話がここまで広がったお話になるなんて・・!
ブログってやっぱりすごい!と感激しきりです。
作り手の気持ちを完全に理解していないかもしれないけれど(思惑にはハマってますが)、私なりの受け止め方で「これがいい!」って思える間はずっとMacやそれに類する物を選んで使っていきたいです。
なんか意味不明でスミマセン・・・
投稿 paillette | 2005.04.01 21:16
pailletteさま
はるばる?パリからお越し頂き、またコメント下さいましてありがとうございます。
コメント、意味不明では全然ないですよ。
私自身も、私なりの受け止め方で「なんで、いい!って思っちゃうんだろ」ってことをずらずらと書いてみたら、こんなでっかい記事になってしまったという感じです。
Macユーザーになってからまだ1ヶ月ぐらいですが、私もまったく同様にその思惑にハマってまして、次に登場予定のMacOS X Tigerなんかも心待ちにしています。
投稿 スナドリ | 2005.04.02 00:53