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NeXT IMPRO THEATRE 第25回公演 その1

梅雨の最中の第25回。いつもの新宿プーク人形劇場。
今日のスナドリは、一日中激しく頭を使う仕事をしていたせいか、妙に頭の中がオーバーロードしてるみたいにハイな状態で入場。ちゃんと楽しめるかやや心配になる。

お客さんは、開演時は空席がやや目立っていたのだが、徐々に増え始めて、開演から少したった頃には、大体埋まるような具合。やはりプーク人形劇場はJR新宿駅から少し遠い場所にあるため、19時30分開演ぐらいがちょうど良いのかもしれない。

今回の出演者は、impフルメンバー(入岡雅人、飯野雅彦、奥山奈緒美、秋山桃里)とXpot(川添圭太、鉢山あきこ、松本雅子)。前回より少し人数が少ないのだが、その分、みんなじっくり観れるのがちょっとうれしい感じ。

今回も、劇評は第1部のロングフォームについてお送りします。


■ロングフォーム 「モンマルトルの丘」 インプロチーム:imp

まずはスケッチから。「モンマルトル」の言葉の響きから絵画の話が始まる。みんなが好きな画家について。マティス。シャガール。モディリアーニなど。絵の雰囲気をマイムで表現するのが、妙に似てて笑えた。そうこうしているうちに、画商のシーンからスタート。

画商のゴブリンさん(imp:奥山奈緒美)に絵を売込む売れない貧乏画家のジャン(imp:入岡雅人)。自身の渾身の作品を持ち込むが、目の肥えた画商にいとも簡単に断られてしまう。
肩を落として帰宅したジャンは、友人(imp:飯野雅彦)に相談する。「やはり、モンマルトルの丘にまた修行に行くしかないんだろうか・・」とジャン。友人はなぜかサンドイッチをパクつきながら(笑)、「だから何度も言ってるだろう!行きゃあいいってもんじゃないんだって!」。
ジャンは画家の割には、どことなく自己顕示欲とか主体性に欠ける作家のようであった。

ここでエディット。ストーリーを中断して再度のスケッチを行う。
「修行」からの連想で、奈良の役行者が修行したという洞窟の話。そこで神通力を得て、空を飛んで全国の人々を救済したりしたという伝説についてなど。

場面転換。モンマルトルの丘にある修行の洞窟。座禅を組み、お経を唱えて修行するジャン。お経を激しく唱えているうちに、洞窟の奥から「絵画の女神」(imp:奥山奈緒美)が出現する。女神は、ジャンの右手に情熱の力を授けてくれた。「その力で愛に満ち溢れる絵を描き続けるのだ」と女神。右手からは、授けられた力によって自分の熱い気持ちが溢れ出し、ジャンは猛然と洞窟の中で絵を描き始めた。彼は、情熱のような気持ちのほとばしりが足りなかっただけで、実は元々才能のある画家であったのだ。
そうしてジャンは、生まれて初めて、真の自分自身の絵と出会うことになる。
その出会いこそが、画家としての本当の人生の始まりを意味していた。

完成した絵を画商のゴブリンさんの元へ運び込む。題して「愛の聖獣モロコフリン」
そこには、これまでには考えられなかった躍動感と慈愛が満ちあふれている絵があった。画商のゴブリンさんは大変に驚き、すぐさまジャンと契約を結んだ。

と、ここでさらにエディット。
「契約」の怖さの話。守るべき約束のプレッシャー。逃げられない強制力についてなど。

場面変わって、時間に追われながら絵を描いているジャンのシーン。
彼が交わした契約は、実は何とノルマが課せられた仕事の契約であった。そこには画家としての主体性は存在せず、とにかく絵を量産することのみが求められていた。ノルマを果たさせようと配置された私兵(imp:飯野雅彦)に、銃まで突きつけられながらの消耗的な作業。約束は約束と、あきらめて絵を描き続けるジャン。貧乏画家からの脱出という喜びが彼に、その本来の使命を忘れさせてしまったのだろうか。

と、そこに絵画の女神が再び現れる。「愛に満ち溢れた作品」のことを忘れ去ってしまったジャンに改めて啓示を与える女神。ジャンはようやく我に返り、「やはり自分は“ほとばしり”がないと描けないんです!」と契約の放棄を願い出た。だが、彼の訴えもむなしく、容赦なくそこに銃が突きつけられる。生命の危機に直面し、ジャンは自分自身との最後の戦いに挑んだ。
女神の啓示も作用してか、彼は、やはり“ほとばしり”で描く本当の自分自身の絵を諦めきれなかった。そうしてジャンは、契約違反という名の元に、放たれてしまった凶弾に倒れてしまう。

本当の自分の使命を得ていながら、志半ばにして息を引き取るジャン。
その倒れていくほんのわずかの時間の中で、彼は最後の力を振り絞り、その筆を走らせていった。
まるで、自分で自分の墓の墓碑銘を刻んでいくかのように・・。

そうしてジャンは殺されてしまったが、彼の死に際の最後の作品だけが後世に残された
ある丘の上で、絵画に命を捧げ、死んでしまった男の絵。

そう。題名は「モンマルトルの丘」。



一見、貧乏画家が単純に女神の力を得て大成していくストーリーかと思いきや、途中途中のエディットが作品に対してうまい具合に化学反応を発生させ、奥深い内容へと展開していった様が、とても興味深かった。

人生や世の中においては、時としてどうしようもなく理不尽で不公平な悲劇が起こる時があるとスナドリは思うのだが、このジャンも、ようやく本当の自分の絵画に出会えたにも関わらず、不幸にして結んでしまった「契約」のために、殺される結果となってしまった。

果たしてジャンは、何か過ちを犯してしまったのだろうか?
・・・彼は、絵画に対してとても真摯な態度でいただけで、実は、周囲の画商や女神たちが、彼の人生を不幸な方向へ変えてしまったのではなかろうか?
もしかしたら、女神にその情熱の力を授かっていなければ、もっと別の形で、ジャンの才能は開花したのではないだろうか?

画商はよいとして、絵画の女神の存在にスナドリは少し違和感を感じた。なぜならば、この女神は、絵画を司る女神であって、ジャンにとっての女神ではなかったように思えたからである。もしも、ジャンにとっての女神であるならば、何よりもまずジャンの生命を守ることが最優先であったはずで、ジャンが成すべき仕事は二の次でよかったはずだ。ところが、結果として女神は、ジャンに契約の破棄を申し出させてしまい、命よりも絵画を優先させた。これは、この女神は、絵画のためであれば人の命をもかえりみないという存在にスナドリには思われた。
つまり、「画商」と「女神」は、ストーリー中で絵画に対して全く正反対の立場をとっているが、どちらの人物も、自身が持つ絵画に対する欲望(画商は「売れる絵が欲しい」、女神は「愛に満ち溢れる絵を描かせたい」)に対して忠実に行動する存在だったのである。
そしてジャンは、その彼らの果てのない絵画への欲望に翻弄され、人生を狂わされていってしまったのだ。

奇しくも、その両方の人物を奥山奈緒美が演じていたのだが、かたや絵画の女神、かたやビジネス重視の画商と、異なる方向のキャラクターでありながら、「絵画の名のもとの欲望」という共通の要素を(たとえ即興の中での偶然だったとしても)表現したことは、このロングフォーム作品における「奇跡の力」の原動力に確実に繋がっていったと思われる。

そして、その原動力はその後の素晴らしいエンディングに結実することになる。

ラスト。凶弾を身体に受けて死に逝くさなか、最後の力を振りしぼって筆を走らせるジャン。ところがそこに生まれたものは、画商のための売れる絵でもなく、女神のための愛に満ち溢れる作品でもなかった。遺作となったその作品、「モンマルトルの丘」は、自分自身の生きた証をそこに残すための「死に逝く男の絵」という、誰のためでもなく、彼自身が求めていたはずの、本当の彼の作品であった。
画商や女神に人生を変えられてしまったジャンであったが、死の瞬間の最後のわずかの時間の中で、彼は本当に自立した画家として存在することができた。そして、実に素晴らしかったのは、そうして生まれた作品だけが後世に残されたという場面で、見事に幕切れを迎えたことである。
そこにはまるで、芸術なるものの本質が語られているようにまで、スナドリには感じられた。

このロングフォームは、芸術の本質と、それに魅せられた人々や神、そして人の人生のはかなさなど、様々な興味深い示唆に富んだストーリーで、インプロが本来的に持つ「奇跡の力」を実感させられる作品であった。

ちなみに、その「モンマルトルの丘」とは、フランスのセーヌ川右岸パリ北部に位置する実在の地名で、19世紀から20世紀初めには、ピカソやモディリアーニなどがここに住んでいたという場所である。
しかも、そこには何と「モンマルトル墓地」があり、数多くの芸術家が眠る墓地なのである。

今回のロングフォームは、インプロの「奇跡の力」を観劇中も公演後もまざまざと見せつけられる、そんな作品であった。

その2に続きます。

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